肺がん
肺がんの治療法
治療の概要、治療選択(※1)
肺がんの治療法には、手術療法、放射線療法、薬物療法、緩和ケアがあります。どの治療法や治療薬を選択するかは、がんの組織型や遺伝子変異の有無、がんの進行度(病期、ステージ)、心臓・肺・腎臓・肝臓などの臓器機能、合併症、全身状態(パフォーマンスステータス:PS)、年齢などを考慮して、総合的に判断します。
がんの進行度と主体となる治療法
手術療法(※1)
非小細胞肺がんに対する治療の基本は外科的手術です。
手術療法は、腫瘍やリンパ節の転移が切除できる病期にあり、手術に耐えうる全身状態であると判断された場合に行います。病巣を完全に切除することができれば、最も治療効果が高いと考えられる治療法です。手術は、開胸手術または胸腔鏡手術によって行いますが、より侵襲性が低く、体への負担が少ない腹腔鏡手術は、一般的に術後の痛みも少なく社会復帰が早くなることから、近年では主流となっています。
放射線療法(※1)
放射線療法は、がん細胞に放射線を当て、放射線のエネルギーを利用してがん細胞を傷つけ、徐々に死滅させていく方法です。メスや麻酔を必要としないため、体への負担が少ないことが特徴です。
放射線療法は、治癒を目指すための根治照射を目的として行う場合と、症状を軽減するための緩和照射として行う場合があります。緩和療法では、脳転移、骨転移、気道狭窄などに対して行います。
放射線療法の副作用は、放射線の当たる部位(照射野)にあらわれます。急性の副作用には、放射線皮膚炎、放射線食道炎があり、治療の約2ヵ月後にあらわれる副作用には放射性肺臓炎があります。放射性肺臓炎では、乾いた咳、発熱、呼吸困難などの症状があらわれることがあります。(※2) 無症状のまま経過することも多いですが、まれに重症化することがあるため、定期的な診察が必要となることがあります。
放射線療法は、抗がん薬の治療と同時に行う場合もあります。
薬物療法
薬物療法には、主に細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を使用します。
細胞傷害性抗がん薬(※1,2)
体にX線を当て、得られた情報をコンピューターで解析する方法です。胸部X線検査ではわかりにくい体の深い部分の腫瘍も、位置や大きさを確認することができます。また、リンパ節転移や他臓器への転移の診断にも有用です。
分子標的薬(※2)
分子標的薬は、がんの増殖に関わる特定のタンパク質などに対して作用する治療薬です。細胞障害性抗がん薬と比べて、よりがん細胞に特異的にはたらくため、正常細胞への影響が小さくなることが期待されています。
遺伝子検査を行い、標的となる遺伝子変異が見つかれば、それに合わせて分子標的薬を選択します。
免疫チェックポイント阻害薬(※2)
免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持っている、異物を攻撃する力(免疫反応)を高め、がん細胞を排除する治療薬です。免疫チェックポイントとは、体内で過剰な免疫反応がおこらないように制御している仕組みのことで、がん細胞の中には、この仕組みを利用して免疫反応をすり抜けてしまうものがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、これを阻害することで免疫反応の抑制を解除(=免疫反応を活性化)することができます。
免疫チェックポイントの仕組みと免疫療法
私たちの体の中には、「T細胞」という「がん細胞」を攻撃する性質がある免疫細胞があります。免疫本来の力によって、発生した「がん細胞」を排除しています。
しかし、T細胞が弱まったり、がん細胞がT細胞にブレーキをかけたりしていると、がん細胞を排除しきれないことがあります。たとえば、がん細胞がPD-L1というアンテナを出して、T細胞にあるPD-1というアンテナ(受容体)に結合し、T細胞の攻撃にブレーキをかけるのです。このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。
免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作用して、免疫機能にブレーキがかかるのを防ぎ、がん細胞を攻撃できるようにします。これを免疫療法と言います。
緩和ケア
緩和ケアは、肺がんが原因で生じる症状や、肺がん治療によって生じる症状をやわらげるための治療です。緩和ケアは、以前は積極的な治療を中止した後に行う終末期ケアと考えられていましたが、現在では治療と並行して早期から行うことで、生活の質(QOL)を維持しながらより長い生存が得られることがわかっています。
このページは、2021年2月現在の情報をもとに作成しています。
参考文献
- 大江裕一郎, 鈴木健司 編, インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺がん 改訂第5版, 医薬ジャーナル, 2017.
- 医薬情報科学研究所 編, 病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, 株式会社メディックメディア, 2018.