心不全と検査

心不全は進行性の疾患です。
早期発見と予防が重要です。

おさえておきたいPOINTS

  • 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。
  • 糖尿病の方は心不全を発症するリスクが高いため、定期的な心臓の検査をおすすめいたします。

心不全とは?

心不全とは、一般向けのわかりやすい定義では、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」とされています。

心不全は病態(病気の状態)を表しているもので、特定の疾患名ではありません。いろいろな心臓の病気(特定の疾患)があって、最終的に心臓の働きが悪くなり、心不全になります。
心臓は全身に血液を運ぶポンプの働きをしていますので、心臓の動きが弱くなると、全身に血液が行き届かなくなってしまい、息切れやむくみなどの症状が出てきます。これが心不全の状態です。

心不全になると以下のような症状がみられます。

息切れや倦怠感、動悸

全身への血液の巡りが悪くなることで、血液からの酸素や栄養の供給が足りなくなります。すると日常生活でこれまで苦ではなかった階段や坂道で息が苦しくなったり、疲れやすくなります。

むくみや体重増加

心臓の働きが悪くなり循環している血液の供給が少なくなると、人間の身体はおしっこの回数を減らして、それを補おうとします。しかし、実際にはその補う力が強すぎて、体の水分が体内に残り続けるため、足の甲やすねのあたりなど体がむくんだり、体重が急増したりします。
ゆっくり時間をかけて慢性的に進行する状態(慢性心不全)と、急に悪化または発症して緊急な対応が必要となる状態(急性心不全)があります。

心不全になる原因は?!

様々な病気が心臓機能の低下(心不全)の原因になります。
  • 心臓の筋肉に酸素や栄養を与えている血管(冠動脈)が詰まってしまう【心筋梗塞や狭心症】
  • 常に血圧が高い状態を放置する【高血圧性心疾患】
  • 心臓の各部屋の出口にある弁に異常がでる【弁膜症】
  • 心臓の筋肉に異常が起こる【心筋症】
  • 心臓の動き(拍動、リズム)が異常になる【不整脈】
  • 先天的な心臓の病気【先天性心疾患】

など様々な疾患が原因となって心臓の機能が低下し、心不全となります。
心筋梗塞や高血圧性心疾患は生活習慣病などが基盤とされるため、食生活や運動習慣などに気をつけること、健診などの段階から早期に介入することが重要です。誘引される疾患もありますので、食生活や運動習慣などに気をつけることが重要です。

心不全を発見するためには?

心不全を発見するためには、心臓の機能低下や関連する疾患がないか確認するための様々な検査が行われます。
検査の他にも実際に心不全の症状や徴候(動悸、息切れやむくみなど)がないかを確認します。

  • 聴診:心臓の音を聞き、雑音や心音の異常を確認します。肺に水が溜まってくると、肺音にも異常がおこります。
  • 胸部X線:心臓や肺のレントゲン写真を撮ります。心臓の大きさや形を確認したり、肺に水が溜まっていないかなどを確認します。
  • 心電図検査:心臓は電気信号によって動いていますが、その電気的活動を波形にして確認します。
  • 心エコー:超音波を使って心臓の大きさや形、心臓の壁の動き、弁の動きや血液の流れを確認します。
  • 血液検査(ナトリウム利尿ペプチド):採血した血液からNT-proBNPやBNPと呼ばれる血液中に存在する物質の量を調べます。
    このホルモンは、心臓が自分を守るために心臓自身が作って分泌しているもので、心臓に負荷がかかるほど心臓はこのホルモンを作り、血液中に多く放出します。
    したがって、心不全になると結果的に血液中に多く存在する物質となります。

心不全は予防が大切です。

心不全は予防が大切です。

心不全にはステージ分類があり、だんだんと進行していきます。ステージA/B/C/Dと先の段階に進まないように予防していくことが大切です。
心不全の症状が出ていないステージA,B、症状が出ているステージC,Dと区分があります。

ステージA

心不全の危険因子(糖尿病、高血圧、動脈硬化など)がある状態です。生活習慣の改善などを行い心臓の異常に進展しないよう防ぐ必要があります。つまり、糖尿病や高血圧を放置せず、きちんと治療する事が大切です。

ステージB

症状がでていませんが、何らかの心臓の異常(心疾患)がある状態です。心不全にならないように心疾患の治療を行い予防します。

ステージC

心不全の症状が現れ、「心不全」と診断された状態です。心不全の治療を行い、再入院や突然死を防ぎます。ただ、ここまで来てしまうと、治療の効果は一時的なもので、心不全の進行を防止できないことが多く、ステージAやBでの治療が非常に重要になってきます。

ステージD

治療を行っても改善が難しい(治療抵抗性)末期の状態です。

糖尿病と心不全の関係

糖尿病と心不全には密接な関係があります。
糖尿病は既に心不全リスク段階のステージAであり、心不全進展のレールに乗ってしまっている段階です。
高血糖状態では動脈硬化などが進み、それによって心筋梗塞や狭心症を発症したり、糖尿病腎症などによる血液量のコントロール不良が起きやすかったり、血糖による心筋へのダメージなどが原因となって心臓自体が硬くなったり(線維化)、肥大したりします。
つまり糖尿病患者は無症状のうちに心不全へと進展している可能性が高いです。
そのような背景から糖尿病患者ではナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP,BNP)や心電図、胸部X線等によって定期的な心不全を検出する(スクリーニング)検査が推奨されています。

NT-proBNPってなに?

NT-proBNPは心臓の負荷(心不全の重症度)を反映する血液中の物質(バイオマーカー)です。
心臓に負荷がかかった状態が続くと、心臓から分泌されて血液での濃度が上昇します。
値が高いほど心臓が弱っている可能性があります。

NT-proBNPの検査結果の見方

  • 55 pg/mL未満:心不全の可能性は極めて低いです。
  • 55 pg/mL以上 125 pg/mL未満:心不全の可能性は低いです。可能であれば経過観察をしてください。
  • 125 pg/mL以上:前心不全(心臓機能障害があるが心不全症状/徴候がない)、または心不全の可能性があります。精査または循環器専門医の受診を推奨します。
  • 300 pg/mL以上:心不全の可能性が高いです。精査または循環器専門医の受診を推奨します。

NT-proBNPの血液検査はどこでできますか?

多くの健診機関でオプション検査として検査が可能です。
多くの病院でも検査ができますので、気になる症状がある方は主治医の先生への相談や循環器専門医での受診をお勧めします。

監修:

新潟大学大学院 生活習慣病予防・健診医学(健診・人間ドック学)講座 特任教授/新潟県労働衛生医学協会 理事 加藤 公則 先生